読みました「ラプラスの魔女」

ラプラスの魔女、表紙 読んだもの

この「ラプラス」とは数学者のこと。「ラプラス」なんて、はじめて知りました。すべての物質のふるまいを計算できたら、未来が予測できる、と提唱しました。ラプラスの仮説を体現するような、物理現象をスーパーコンピューターのように計算できる超天才がいたとしたら、という「空想科学ミステリ」です。

ラプラスの魔女、表紙

ラプラスの魔女
東野圭吾著

面白かったです。不思議な現象にひかれつつ、殺人事件の真相が明らかになるにつれ、私はいつのまにかラプラスの悪魔の味方になってしまいました。読み進めるうちに、父を無視する息子と、うちひしがれる父親の見え方が、ぐるりと180度回転したように感じます。しかも一瞬で回りました。悲惨な事件をからめていますが、読んだ後はさわやかな気持ちです。

ラプラスの魔女、帯物語のなかで、重要人物である天才的な映画監督はブログを書いています。このブログの内容は、悲劇の父親に感情移入させてしまいますが、ブログはあくまで誰も責任を持たないでよい文章です。捜査がすすむにつれて、このブログとその父親の印象も劇的に変わります。作者がネットやブログの情報を「信用ならないもの」として見ていることがわかります。小説ははじめから創作だと認識してページをめくりますが、ブログはあたかも実体験と生々しい感想が並んでいて当然のように思っています。しかし、事実なのかどうかはわからない。空想科学ミステリである小説よりも、ブログの中の方が嘘の色が濃いのでしょう。

千里眼をもちつつも、親愛の情感がうまれつき欠落した天才は、自分と同じ能力を持つ「ラプラスの魔女」に出会い、はじめて仲間ができます。しかし彼女もまた、「ラプラスの悪魔」の意思で生み出され行動しているように思えてきました。もし神様がいるとして、万能であるなら、それは孤独なんだろうなと思います。「ラプラスの悪魔」はまた別の作品に登場するのでしょうか。続編が楽しみです。

「ラプラスの魔女」東野圭吾 著