三鬼 三島屋変調百物語四之続 宮部みゆき著
読みはじめるまで1月以上、心の準備をした本
大好きなドラマが終わって、ロスっていたときに買いました。この本なら、心の穴を埋めてくれる事は確実だろうと。
しかし、この本に失礼な気がしてしまって、気持ちが落ち着くまでは読み始めない事に決め、1ヶ月以上かけて、心の準備をしてから読みました。準備しただけあって、読み応えありでした。すごく面白かった!ああ、待って良かった!
怪談として読み、おちかを応援しながら読む
自分が悪い訳でもなく、人生に危機は訪れます。主人公のおちかは、不思議な百物語を集めます。でもオカルトな話よりも、おちかが人生に立ち向かおうとする瞬間を私は待っているんだな、と思って読んでいます。
「迷いの旅籠」は、死んだ人に会いたい、しかし会ってみたらとんでもないことに、というイザナギ、オルフェウス的な話。「食客ひだる神」も、餓死した魂のひだる神の伝承をモチーフにしています。古典をもとにしている2編では、おちかに語っている語り手が、「これは怪しい」とわかりながらも、はまっていく恐ろしさがありました。読んでいて、「どうなっちゃうのー」というはまり方です。
表題となっている「三鬼」がもっとも印象的で、同時代に暮らすおちかでさえも想像できないほどの貧しさに、胸がつまるようでした。鬼はいったい何者か、ということは、鬼になるまでにいったい何があったのか、と考えること。二つに分けられた集落の意味、小さな子供も年寄りもいない意味が、徐々にわかっていく恐怖は、鬼が攻撃してくるという危機感よりももっとぞっとしました。読み終わってからも、この「三鬼」の出た山奥の村のことを考えています。統治していた殿様の、不作為の殺意ともいえる怠慢は許されるものなのか、どうか。印象に残る、そしてふとしたときに考え込んでしまう話でした。
「おくらさま」では、はじめておちかが動きます。語り手がそもそも怪しかった、この話。おちかは、黒白の間を出て、消えた語り手を探します。探しながら、おちかの周囲にも変化があり、新しい仲間が増えました。ああ、やっとおちかが、外に出ていけるようになったんだ、と思いました。
頼りになる探偵のような貸本屋さんで、おちかとは縁がある人なんでしょうが、かわりに手習い所の若先生が去る事に。仕官先が見つかり、なおかつ子持ちの女性と結婚するわけです。そんなことってあるでしょうか。青野先生は、剣の腕もたつさわやかな青年で、おちかのいる三島屋を押し込みから救ったヒーローでした。私は、てっきり青野先生と。。。と期待していましたから、非常に残念でした。おちかが悲しむのとともに、私も悲しんだといっていいかな。青野先生のかわりには、貸本屋さんだけでは足りないのでしょう。おちかの従兄弟が三島屋に帰ってきました。この人も頼りがいがありそう。
でも、時代物のなかで、剣の腕がたつ以上に素敵な男子がいるでしょうか。
気のせいでしょうか。ここでもロスった気分です。