花は一貫して登場する象徴的なアイテムです。花の種類は限られていて、コスモス、リンドウ、コマクサと、各エピソードで印象的に使われていました。
しかし、表紙のイラストはシロツメクサ。
花の冠にして頭にいただくのかしら、と思うと、それぞれのエピソードのヒロインたちに相応しいような気もしてきました。
ミステリーですが、探偵や刑事は出てきません。いくつかのストーリーがからまりながら、最後に1本につながる感じが面白くて、一気に読めました。これが「花の鎖」の意味かと。読んだあとも、胸にじーんとくるものがあります。
「あっと驚くラスト」とは、こういうことを言うんだなあ、と思います。TBSオンデマンドで「Nのために」がたいへん面白かったので、原作者の作品をさがしてみよう、と思ったのですが、間違いなかった〜。
花の鎖 湊かなえ 著
小見出しはすべて、花か雪か月
「たとえば、花」「たとえば、雪」というように、小見出しでは花と雪と月を同じ体裁で繰り返します。バラバラに始まる各エピソードのヒロインに、ふんだんに愛情が降っていたんだということがわかりました。読み終わってから、ページを何回もめくって確認してしまいました。
建築事務所の仕事に詳しい?
「Nのために」でも主人公は大人になって建築事務所にいました。この「花の鎖」でも、ヒロインのひとりである美雪の夫は建築事務所にいました。作者は建築事務所の仕事をよくご存知なんでしょうか。コンペに出す図面が、途中で盗まれて、名前が書き換えられたり、しかも入選してしまうあたりは、リアルでした。そして、盗んだ方が名声を得ていくところも。
仕事をしていると、こうした理不尽で悔しい思いもたくさんします。美雪のエピソードは、ほんとに切なかった。
創作活動の周辺でのねたみ
美雪の夫は設計を盗まれますが、盗んだ美雪の従兄弟もその嫁も、まったく反省していません。理解できない人とはこういう感じなんだろうな、と思います。しかし、何を言っても伝わらない一家だからこそ、創作のレベルも低い。美術館を設計するのに、そこにおさめる芸術作品を理解できていないのですから、きっと何が足りないかもわかっていなかったのではないでしょうか。
美術館の設計は、盗まれたあとも、あまりに素晴らしくて「ほんとの設計者は、ちがうんだよ」と主張しつづけました。設計者は亡くなっても作品は輝き続けて、やはり盗みきれなかった、ということだと思いました。ストン、と胸に落ちるように納得できる部分です。
Kとは誰か
すべての謎が解けたとき、「誰がKだったのか」だけでなく、Kを意味していたのが一人ではなかったこともわかります。最後の謎をあかすKにとっても、長年の疑問が払拭されたところも興味深い。
終盤では、主人公の梨花がヒロインらしからぬ厳しいセリフをぽんぽん出します。これも、すがすがしかったです。りりしいヒロインが美術館を取り戻してやったような終わり方も、素敵だったなあ、と思いました。