読みました「(Outlander 21)遥かなる時のこだま 1」

遥かなる時のこだま1、表紙 OUTLANDER

遥かなる時のこだま1、表紙

クレアとジェイミーからの胸がつまるような手紙の内容が明らかになっていきます。「遥かなる時のこだま1〜3」は3冊で構成されています。前巻の「炎の山稜を越えて 4」の最後では、クレアとジェイミーからブリアナたちへ手紙が届きました。フレイザーズ・リッジの母屋が焼け落ちた顛末と家族の無事を伝える手紙です。この「遥かなる時のこだま 1」は、その過去からの複数の手紙をブリアナが少しづつ読み進めるかたちで進行します。手紙が200年の時間を越えて届く意味はいったい何でしょうか。

遥かなる時のこだま1、表紙

遥かなる時のこだま 1
ダイアナ・ガバルドン著 加藤洋子訳

OUTLANDERシリーズ21冊目「遥かなる時のこだま 1」。原題は「AN ECHO IN THE BONE」。前巻「炎の山稜を越えて 4」でブリアナたち一家は、20世紀に戻りハイランドに居を構えました。

200年の時間をはさんで、クレアたちと、ブリアナ一家は同時進行したストーリーが展開。20世紀に戻ったブリアナたちにとって、クレアもジェイミーも当然、亡くなっているはずの存在なのに、まるで遠方で生きているかのような感覚がします。遠い過去に時が離れても、一緒に生きていっていると思いたいんですよね。

ブリアナにクレアとジェイミーから手紙が届きます。ブリアナは、どっさり届いた手紙を一気には読めません。どうしても読まずにいられなくった時に、少しづつ読んでいくんです。一気に読むとクレアたちが本当に死んでしまう気がするからです。

日本語翻訳で続きが読めないアウトランダーシリーズを、大事に大事に読んでいる私たちと似てる気がします。

遥かなる時のこだま1、とびら

200年の時をはさんで、クレアとジェイミーも、ブリアナ一家も、故郷ラリー・ブロッホを目指した

ブリアナたちの引っ越し先は、ラリー・ブロッホでした。このOUTLANDERシリーズ20冊、21冊目で、ジェイミーとクレアの娘はラリー・ブロッホを銀行から買い取り、住めるように手を入れていきます。一方、ジェイミーとクレアは、イチから開拓したフレイザーズ・リッジを出る決意をします。人に預けてある印刷機を回収するため、また、ヤング・イアンをジェニーのもとに返すためです。

OUTLANDEでは、ラリー・ブロッホは故郷の象徴で、時間を超えて存在するためか、非常に重要な存在と言えます。本作でも、建物自体に特別な役割がありました。「ブロッホ」と呼ばれる所以である、古い塔で不審人物がいたり、フレイザー家、マリー家のお墓があったりします。

ラリー・ブロッホにある暮石

「遥かなる時のこだま 1」の段階では、20世紀のラリー・ブロッホで、ジェイミーとクレアの墓標は見つかっていません。ブリアナが、ジェニーから直接見せてもらったお墓には、

  • エレンと一緒に亡くなった三男ロバート、ブライアン
  • ケイトリン・マスリ・マリー(産後1日で亡くなったジェニーの6番目の子供)

があります。

また、小さい謎の暮石を見つけます。古いものですが、文字がところどころしか判別できません。小さいので子供のものだろうとブリアナは思っています。

  • 小さな暮石(確認できる文字、E、Y、K)

誰のお墓なのか。本当に子供のものなのか。ここのお墓にジェイミーとクレアが眠っているなら、特別な能力が強いジェムとマンディには感じることができるのか。ラリー・ブロッホの要注目ポイントは古い塔(ブロッホ)と、この暮石群なのは間違いないでしょう。

ヤング・イアンとアーチ・バグ

フレイザーズ・リッジでは家族のように信頼していた、アーチ・バグという老人が、金塊を狙っていた裏切り者でした。前作では非常にショックな展開でしたが、今回さらなるショックが。

イアンは、アーチ・バグと間違えて、アーチの奥さん、マーディナを殺してしまいます。追放されたフレイザーズ・リッジに金を盗みに入ったマーディナが悪いし、見つかってジェイミーを銃で撃ちました。ジェイミーを守るために、イアンは弓を引いただけ。イアンは悪くありません。

アーチ・バグは右手の指が3本しかないので、マーディナは銃を撃てるようになったのでしょう。気のいいおばちゃんと思われていたマーディナですが、ハイランダーであるアーチ・バグ以上に血の気の多い人物でした。それでも、イアンを罪悪感で苦しめます。

アーチ・バグはイアンを殺しません。イアンの愛する人を狙うためです。クレアや、飼い犬のロロ、もしイアンが結婚するなら、その嫁を狙うのでしょう。ブリアナを苦しめたボネットのように、今作からは、アーチ・バグがイアンを苦しめる敵となりました。アーチ・バグは斧の名手なので、中近距離戦が得意。18世紀の銃は、命中率が低く射程距離も短いことから、銃を構えるジェイミーよりも先に斧が届くのではないかと思っています。なので、斧が届く距離に詰められる前に、イアンがアーチ・バグに気づくか、どうかが勝負なのではないでしょうか。

ブリアナは現場監督になる

マンディの心臓の病気は治り、ハイランドに引っ越したブリアナは仕事を決めます。水力発電所の監督です。ロジャーは、聖歌隊の指揮者助手となります。歌えなくなったロジャーが、音楽と向き合うのは聖歌隊。ブリアナはハイランドの男性社会で戦っていくのでしょう。頑張れ、ブリアナ!

ウィリアムとジョン・グレイ

ジェイミーの息子であることを知らないウィリアムと、ロード・ジョン・グレイは、もちろんイングランド軍です。ジェイミーは、自分の息子に銃を向けるつもりはないと言っており、直接、戦争に参加しないようです。

赤毛ではないけれど、ジェイミーそっくりのウィリアムは、ジョン・グレイを父親として尊敬しており、ジョン・グレイや周囲の人たちもウィリアムを認めています。ウィリアムは軍隊にいるので心配は尽きませんが、ジョン・グレイが幸せなのは、安心しました。ウィリアムには、いつまでもジョン・グレイの側にいてあげて欲しい。

ウィリアムは知らないことですが、彼はラヴァットの血筋。ゲイリスが信じていた予言の通りに、ラヴァットの血筋がスコットランドの王になるのだとしたら、それはウィリアムでは、と予想しています。そのための戦争の描写かと。また、なぜそのことを予言されたのか。時の旅人が歴史の情報を伝えたのだとしたら、それは誰なのか。非常に楽しみな部分です。

ジェイミーを嫉妬させる人物が登場

「炎の山稜を越えて」でクレアを助けたあの人が、再登場します。彼がクレアを愛していることに感謝しつつも嫉妬するジェイミーは、ちょっと素敵。クレアもドキドキを隠せない、というか死んでいたと思っていたのに生きていたわけですから。そういう驚きですよね。

彼は新聞にクレアたちの死亡広告を出したと話します。この広告があったからブリアナは時を越えてきたのだし、また20世紀に戻ったブリアナたちは、この広告の日付が変わっていることを発見します。時を旅しても歴史は変わらない、と考えていましたが、必ずしもそうではないと判明するエピソードに繋がる部分でもあります。

フランス人の金はスペイン人が守っている

ジェイミーが未来のブリアナたちへと送ったのは手紙だけではありません。くだんの金塊も隠してあるようです。その場所をジェムに教えてあるので、いずれ出てくるのだと思います。

金の隠し場所には、もとからスペイン人の遺体がありました。「フランス人の金」はスペイン人の遺体の側にあるんです。

その金がブリアナたちの生活を助けてくれるといいのですが、きっとそうではないのでしょう。金を巡ってジェムが狙われるのではないかと、心配しています。

ジェムとマンディの存在

時の旅人であるブリアナと、同じく時の旅人であり、ゲイリスの子孫であるロジャーの子供ですから、ジェムはたびたび特別な情報をもたらします。タイムスリップするストーン・サークルが出てくる以外には超自然的な描写が少ないアウトランダーですが、ジェムが成長してからは、時を旅するなどの不可思議な現象について、描写が多くなったように思います。

クレアは18世紀のジェイミーの元に戻り、ブリアナもまたクレアの死亡記事を見つけて、18世紀にいき、ジェムとマンディを出産しました。このジェムとマンディの存在は、大きな話の流れを決定する要素です。マンディの心臓に病気が見つかり、治療するためにブリアナたちは、石を抜けて20世紀に戻ることに決めます。マンディがいなかったら、またジェムがロジャーの血を引いていなかったら、きっと話は成り立たなかったでしょう。

ジェムとマンディはジェイミーの存在を感じている

18世紀にいるのに、ジェイミーは20世紀のジェムとマンディを夢で見ています。「時の旅人クレア」では、20世紀のクレアをジェイミーが眺めている描写がありましたが、今回もジェイミーは夢で彼らを見ています。クレアだけではなく、ジェイミーにも特別な能力があることが伺えます。ジェムとマンディも、ジェイミーとクレアの存在をほのめかす発言があり、ブリアナを驚かせます。

ブリアナとロジャーの時を超える能力も親譲りです。ロジャーの両親についても謎が多いのですが、アウトランダー外伝として出版(日本語でも)されており、ちょうど「遥かなる時のこだま 1」の後に読むのがいい順番のようです。

アウトランダー外伝「追憶の時の扉」は、空軍パイロットであるロジャーの父親の話のようです。本作「遥かなる時のこだま 1」でクレアは、ロジャーの父は時の旅人だったのではないかと、語りました。ニュースソースは諜報部にいたフランクからの手紙で、ロジャーの父親の戦闘機が墜落したことが書いてあったと。クレアは従軍看護婦でしたし。

クレア、ジェイミー、ブリアナ、ロジャー、ゲイリスの血を受け継いだ、ジェムとマンディ。ジェムは本作でクレアの言葉が聞こえるかのような発言をしています。また、ブリアナにジェイミーの姿を見ることができるのか聞かれた時、「マンディならできると思う」と話しています。この二人の存在を通して、長らく謎であった「時を旅する」現象について語られるのでなないか、期待できるのではないでしょうか。

次巻は「遥かなる時のこだま 2」です。

遥かなる時のこだま1、表紙