OUTLANDERシリーズ16冊目である「燃ゆる十字架のもとに 4」では、いよいよスティーヴン・ボネットと対決。4冊で構成された「燃ゆる十字架のもとに」の完結編です。ジェミーの父親が誰なのか推測できる重要なエピソードがありました。そしてパリ編ともいえる「ジェイミーの墓標」の登場人物につながる情報が、意外な人物からもたらされます。前巻「燃ゆる十字架のもとに 3」では、ロジャーが死にそうになり、今回はジェイミーが死を覚悟します。一気に読んでしまったくらい、鬼気迫るクライマックスの連続でした。原題は「THE FIERY CROSS」。
燃ゆる十字架のもとに 4
ダイアナ・ガバルドン著 加藤洋子訳
フレイザーズ・リッジでのジェイミーの存在
ジェイミーは森で大けがをします。ジェイミーが死を覚悟したあたりで、読みすすめながら感じた不安は、「ジェイミーがいなくなったら、みんなどうするんだろう?」というものでした。ロジャーもブリアナもファーガスもクレアも、まだ誰も後継者としては未熟に思えました。それほどジェイミーは完璧なんですね。
リッジのみんなの協力で、ジェイミーは一命をとりとめますが、森で二人きりのときにロジャーに遺言のような申し送りをするシーンがあります。ここで、ジェイミーが誰をどのように評価しているのかがわかります。見逃さないでほしいところです。本書の後半になるとさらに申し送りの内容が明かされ、クレアに関しては「俺が死んだら、彼女は去らねばならない」と伝えていました。”古い者”だとばれたら殺されるから、クレアは必ずストーン・サークルに送り出せと。ジェミーが石を抜けられるなら、ブリアナもロジャーもいくべきだ、と続けます。この話題は、クレアは二度とジェイミーを置いていかない、と信じていた読者に、また「時を旅する」必要が出てきたように感じさせます。そして、やはりジェイミーはロジャーに託します。クレアはまた石を抜けるのでしょうか。
ジェミーの父親は誰か、また「時の旅人」なのか
何度も遺伝子について説明する会話がありました。ジェミーは「時の旅人」としての資質が顕著で、やはりロジャーの子だと思われました。石を抜けるとき、旅人を守るために宝石を身に着けます。その宝石を持つと暖かさを感じることが、「時の旅人」かどうかを見極めるポイントなのですが、ジェミーはオパールを爆発させます。クレアが宝石を持たずに石を抜けて、ゲイリスを驚かせましたが、ジェミーはブリアナとロジャーの血をひくので、それ以上なんですね。なぜオパールは爆発したんでしょう。研磨されてないからでしょうか。ジェミーが石を抜けられることで、今後クレア、ロジャー、ブリアナ、ジェミーの誰もが時を越える可能性が出てきました。
フレイザーズ・リッジの女3人が強い
クレア、ブリアナに加え、マーサリも強くなりました。この本で、もっともアクション的娯楽を感じた部分は女性3人。マーサリはあのリアリーの娘ですが、いまはファーガスの嫁であり、ジェイミーとの強い絆があります。ファーガスは片腕なので、家族の為の猟はマーサリがします。農場の男性の仕事ができないファーガスと結婚したため、苦労の多いマーサリですが、意外に彼女を鍛えたようで、この3人で、バッファローをしとめます。もちろん、ブリアナが斧の一撃でしとめ、クレアが喉をかききるのです。クレアとブリアナ、そしてマーサリが意外に戦う女性だったのが印象的なところ。
ボネットを撃つなら、この人だと思っていた
ジェイミーはスティーヴン・ボネットを探し、おびき出す計画が進行中だとロジャーに話します。ブリアナがジェイミーの時代に、石を抜けてやってきた、その直後からずっと、ボネットを倒すことが物語の重要なポイントになっています。ボネットが緑の目で凶暴だと言う点は、ゲイリスの血縁?のように思えてしまいますが、ここまででは、そんな記述はありません。ボネットは執拗にブリアナとジェミーをさらおうとしますが、クレアはボネットから銃を奪い、マーサリが銃で狙い(不発)、最後はブリアナがボネットの銃で、倒します。あのゲイリスを倒したのがクレアだったことから考えて、きっとボネットを倒すならブリアナだろうと思っていました。おそらく致命傷ではないようですが、なぜボネットは生き延びたのか。まだこれからブリアナたちを狙うのでしょうか。
イアンがモホーク族に残って、本の印象が変わった
ロジャーと引き換えにモホーク族に残ったイアンは、重要な役割がありました。イアンは生きてます。本当にうれしかった。きっと生きているとは思いましたが。イアンがいるからこそ、物語はアメリカ開拓時代にあって、インディアンの視点を持つようになりました。これは、情報が明らかになる以上に、読んでいて興味ある部分です。植民地を広げる一方、ネイティブ・アメリカンは虐殺されます。この時代より少し前なら、この虐殺を止められたかもしれませんでした。「カワウソの歯」の勇気と寂しさは、イアンを通してふたたび共感されます。カローデンの悲しさと共通する、戦争や侵略への著者の気持ちなんでしょうね。この本は、クレアとジェイミーと一緒にいるような、臨場感ある情景がひろがります。ガラガラヘビやバッファローを近く感じながら、同時にいくつもの戦争を歴史的に俯瞰してながめてもいます。不思議な感覚はタイムスリップものの面白さですね。
他にも「時の旅人」が4人いた
クレアはゲイリスから、他にもひとり「時の旅人」に会ったとききました。クレアが見つけた頭蓋骨に歯の治療痕があったことから、「カワウソの歯」を見つけました。もちろんすでに亡くなっています。
「カワウソの歯」は現代での名前はロバート・スプリンガーといい、5人で石を抜けようとしましたが、過去(あるいは未来)に旅立つことができたのは4人のようです。誰が石を抜けられず死んだのか、まだわかりません。そしてそれぞれが宝石で見を守ろうとしました。
トライしたのは次の5人です。このうち4人が時を超えました。
「カワウソの歯」、研磨していないサファイアを持ったが、すすを残して消えた。
「はげしく降る雨」もサファイアを持った。
「魂と話す人」はルビーを持った。
「健脚」はダイアモンド。
「六匹の亀」はエメラルド。
ジェイミーたちの持っている宝石
ジェイミーたちも宝石を所持しています。ジェイミーやクレアは誰かが石を抜ける必要が出た時のために、「旅のチケット」だと思って宝石をなかなか手放そうとしません。
- エメラルド
- 黒ダイヤ
- ルビー(ブライアンのもの)
- サファイア(未処理)
- 大きなトパーズ(売って、リアリーあるいは娘に払う)
- オパール(ジェミーが持ったら爆発したので、消滅)
これから「ジェイミーの墓標」を見るなら
これから(2016年6月)、ドラマではシーズン2が始まります。パリには、実はゲイリスが占い師として暮らしていました。会う事はありませんでしたが、このあたりのパリでは、もう一人時の旅人だと思われる人がいました。マスター・レーモンという変わった人物で、クレアと仲良くなります。
マスター・レーモンは、「カワウソの歯」の知り合いで、「レーモンド」と呼ばれるシャーマンではないかと思えます。時の間を歩き回れる(「健脚」か?)能力があり、小鳥や動物に変身できると、「カワウソの歯」は思っていました。
スコットランドの王とは誰の予言か
ゲイリスがラヴァットの血をひくフレイザーを狙いました。ラヴァット家の血筋はのちに絶えてしまうので、ブリアナを探すとゲイリスが話します。それでクレアに倒されてしまうのですが、この予言はマスター・レーモンや他の「時の旅人」からもたらされたものなのでしょうか。
リアリーが好きになれない人必見
このOUTLANDERの原作も16冊目ですが、リアリーがクレインズミュアの魔女裁判でクレアを殺そうとしたことを、ジェイミーが初めて知る事になりました。やっぱり知らなかったのか!これを知っていたら結婚していなかったとジェイミーが言いますが、今更なに言ってるのかと、のんきな発言に私はちょっと信じられませんでした。
次巻は、「炎の山稜を越えて 1」です。表紙のイメージから、越えるのはブリアナか?と思っています。ジェミーは時を越える事ができます。もちろん一緒?炎と血を使う事で行きたい時代への微調整ができるとか。4年後、ジェイミーとクレアが死んだという新聞記事のとおり、歴史はかわらないのでしょうか。