読みました。Outlander外伝「ゲールの赤き火影」

ゲールの赤き火影、表紙2 OUTLANDER

ゲールの赤き火影、表紙

ロード・ジョン・グレイとジェイミーがダブル主役となったこの作品は、クレアこそ出てこないけれどもアウトランダーの大事な物語の一部でありました。アウトランダーの原作ファンである私は、この外伝に、非常に満足しています。

ダイアナ・ガバルドン著「ゲールの赤き火影」
原題:The Scottish Prisoner

アウトランダーの魅力って、こう言うことだよな、と思いました。ジョン・グレイもジェイミーも、それこそページごとに複雑な感情を見せます。私が200年前のヨーロッパに対して抱いていたイメージとは全く違うんです。なぜ複雑なのかと言うと、なんと言っても状況や立場が複雑、お互いの利益や目的も複雑(どころか一部相反する)、ぜんぜん純朴でもないし、権謀術数を張り巡らせた中で、深読みの応酬を続けるわけです。今回も、ロード・ジョンとジェイミーは複雑な罠をかいくぐって行きました。

そんな話なので、ジョン・グレイとジェイミーの間の信頼が暖かく感じられるのかなと思います。

ジョン・グレイの近侍、トム・バードの忠誠心

ジョンが殺人の濡れ衣を着せられ、アスローン城に囚われたとき、トムはジェイミーにグレイからの伝言を伝えます。グレイは助けるように頼んだけれど、ジェイミーには命がけでジョンを助けなくても逃げることができますから、トムは不安いっぱいなんですね。

ジェイミーがジョンを助けると言うと、トムの表情がぱあっと明るくなります。そのトムの反応は、ジェイミーを満足させます。ジェイミーは自分が満足したことに驚くわけです。読んでいる私は驚きゃしませんが、複雑な友情の確認をしてるなと思います。

三度殺された男と金のカップ

ジェイミーが訪れたインチクリロン修道院で、興味深い情報を得ますが、何かの存在に寒気を覚えます。時を超えることはできないジェイミーですが、霊感があるのでしょうか。こうして、たまに何かの気配を感じる記述があります。とても珍しいので、書き留めておきたい。

修道院には、ピート(泥状の炭)の中から見つかった人間の手が残されており、指輪をはめていて、ルーン文字(古代アイルランドのオガム文字か?)が彫られていました。体も掘り出したところ、男は仰向けになっていました。喉が切られ、縄をかけられ、殴られて、3回殺されるだけの損傷がありました。誰の手だ?

  • 粗末なブリーチとクローク
  • 喉元に小さな金のブローチがとめられていた
  • 喉が切られ、すごい力で殴られている
  • 首もとには細い縄が巻かれていた
  • 金の柄、宝石のはめられたカップ
  • 現地の老女がリアと呼ぶ、湾曲した金属のもの

ジェイミーは、宝石のはめられたカップ「コーパン・ドルイド・リー」を沼地にかえし、亡くなったアイルランド人トバイアス・クインを埋葬しましたが、その時に30人ほどの亡霊(?)の一団を見ます。金の柄には、剣ではなく湾曲したナイフがついていたことがわかりました。

アイルランドにある立石(スタンディングストーン)の情報

また、宝石がはめられたカップの底には「割れた長石」が彫られています。ジェイミーからすれば、まさしくスタンディングストーンです。

男が掘り出された沼地に行ってみると、ジェイミーはただならぬ気配を感じます。また、ファーザー・マイケルは「ここから1マイルほど離れたところ」に立石があり、一つは割れていると言います。

地獄に払う十分の一税

修道院長は「小妖精」だとのこと。これはアンリ・クリスチャンもでしょうか。「妖精は長生きする代わりに地獄に税を払わねばならない、7年ごとに払う」という話題が出ました。

絶望したクインが亡くなっている部屋で、十分の一税と壁に自分の血で残します。ここで、「コーパン・ドルイド・リー」をジェイミーが回収。

クインが自分の血でを「十分の一税」と書いていたけれども、納税したのは果たしてジェイミーなのか、クインなのか、とジェイミーは考えます(もちろん答えは出ない)。7年に一度というなら、年号を控えておくべきかと思う。この事件が始まったのは1760年4月1日。

ロード・ジョンとイゾベルはなぜ結婚したのか

本編の方では、気付いたときには、ロード・ジョンはヘルウォーターの領主の娘イゾベルと結婚し、ウィリアムの育ての父になっていました。てっきり、ジェイミーへの友情から、ウィリアムを守ために、ウィリアムの叔母で育ての母になるであろうイゾベルと結婚したのかと思っていましたが、違うんですね。

この外伝では、第5部でその経緯が描写されていました。

ロバート・ダンセーニの息子が戦死したのち、戦友だったロード・ジョンは、ヘルウォーター(ダンセーニの領地)を定期的に訪れていて、すでに絆がありました。だからこそ、ジェイミーの仮釈放中の預け先として頼むことにしたと。

ジェニーヴァが産んだウィリアムには、戸籍上の両親が亡くなっている上、男性の親戚は祖父以外にはいません。ダンセーニは、息子同様の待遇でヘルウォーターに出入りするジョン・グレイに後見人を頼むことにしました。ウィリアムの叔母イゾベルとの結婚よりも先に、祖父ロバート・ダンセーニに後見人に指名されたのです。

ジョン・グレイは、ウィリアムの後見人を即快諾しましたが、あくまでもダンセーニ氏が自分を息子のように迎えてくれたことに報いる気持ちからです。ダンセーニ氏もレディ・ダンセーニも、ウィリアムの実父が誰であっても、孫であることには変わりありません。ウィリアムの後ろ盾にジョン・グレイがなってくれれば、ウィリアムを遠方に預けることなく育てられます。

その後、イゾベル側に、ジョン・グレイを意識する事件が起こりました。

イゾベルは結婚したい年齢ではあっても、彼女の家柄に釣り合う結婚相手が近隣にほとんどいませんでした。あせっていた彼女は、ろくでなし弁護士(実は妻がいる)に簡単に騙され、駆け落ちします。ジェニーヴァのメイドのベティ(美人で頭の回転が早かった)はジェイミーに追わせて助け出し、純潔は守られました。ジェイミーは惨めな様子のイゾベルをジョンの部屋に放り込み、ジョンに慰めてことを収めるよう言います。おそらくジョンは、誰にも見られないように部屋に彼女を戻し、評判を守ってあげたのだと思われます。

失恋しキズものにされかかってボロボロのイゾベルは、ジョンに家族以上の親しさを感じたでしょうし、秘密を共有することになりましたから、のちにジョンと結婚したのも、彼女にとっては喜ばしいことだったでしょう。家柄も性格も顔も良い紳士のジョンは、夫としても、ウィリアムの父としても申し分ありません。

イゾベルはジェニーヴァに比べ、優しい大人しい印象でしたが、そうでもなかったのですね。ジェニーヴァがジェイミーにパワハラしたことを思い出しても、考えも浅く、やらかす姉妹だったと言う事です。

ジョンのイゾベルへの気持ちについては、何もそれらしい記載はありませんでした。しかし、ウィリアムがジェイミーの実子であることは、見てすぐにわかったようです。そして、ジェイミーが「ベティに求婚するつもり」でなく、ウィリアムから離れたくないために、ヘルウォーターにとどまるのだと気づき、晴れやかな気持ちになりました。

おもな登場人物

ジョングレイ(イングランド軍中佐)/ジェイミー・フレイザー(仮釈放中)/ハル(ジョンの兄、パードロー公爵)/ハリー・クオリー(イングランド軍大佐)/トム・バード(ジョンの近侍)/ミニー(ハルの妻)/チャールズ・カラーザス(イングランド軍大尉)/ジェラルド・シヴァリー(イングランド軍少佐)/エドワード・トゥウェルブツリーズ(イングランド軍の大尉)/シュテファン・フォン・ナムツェン(ドイツ人将校、ジョンの友人)/トバイアス・クイン(ジェイミーの友人)/ロバート・ダンセーニ(ヘルウォーター領主)/ウィリアム(ロバート・ダンセーニの孫、ジェイミーの実子)/イゾベル(ロバート・ダンセーニの娘)/ベティ(ダンセーニ家のメイド)/クレア(ジェイミーの妻)