読みました「(Outlander 10)妖精の丘に再び 1」

妖精の丘にふたたび1 OUTLANDER

OUTLANDERシリーズ10冊目である「妖精の丘にふたたび 1」は、「時の彼方の再会」に続いて、クレアとジェイミーが新しい土地で運命をきりひらきます。新しい登場人物、新しい土地の様子が連続します。ヤング・イアンをとりかえしましたが、結局ラリーブロッホには返さずに旅に同行します。どうしてもジェイミーとクレアが中心になってしまうのですが、ブリアナとロジャーのほほえましい場面も多いです。
原題は「DRUMS OF AUTUMN」。妖精の丘にふたたび1

妖精の丘にふたたび1扉OUTLANDERシリーズ10冊目

妖精の丘にふたたび 1
ダイアナ・ガバルドン著 加藤洋子訳

ロジャーがキルトを身につける「カイリー」

ロジャーには意外な趣味があり、お祭りでスコットランド民謡を歌います。
そのお祭りは、ゲール語で「カイリー」と言うそうで、ドラマのアウトランダーを好きな人でにぎわうwebのコミュニティを思い出します。ゲール語だったんですね。10冊目を読んでやっと気づきました。サイトには記載があるのでしょうか?

「クランの点呼」では、こちらのテンションも上がる

ロジャーはマッケンジーですが、お祭りでは「クランの点呼」があり、それぞれの一族が鬨の声を上げます。次々にききおぼえのある名字がさけばれ、いままでの登場人物がちらっちらっと頭をよぎりました。20世紀にいるブリアナとロジャーが、クレアたちのいる時代とつながっていることがわかります。

この場面では、ブリアナがフレイザーのクランのバッジを見て、衝撃を受けます。モットーが書かれています。
<ジュ・スウィ・プレ> 覚悟はできている、という意味。
ここはマッケンジーだのフレイザーだの、印象的な場面でした。カローデンでなくなってしまったクランを、200年の時間の流れの先に見つけたような、テンションのあがった場面です。歴史のなかで語られることに、急に実在を感じる瞬間、これが歴史のロマンなのでしょうか。

グレアムさんは魔女だった

「グレアム一族、ここにあり!」と読んだとき、あれ、きいたことあるな、と思いました。これは「時の旅人 クレア」に出てきた、牧師の家の家政婦さんの名前でした。この家政婦の「グレアム」さんは魔女集会にも参加しており、クレアの手相に関して興味深い意見をしていたり(占ったり)、20世紀にクレアが戻るはずだとフランクに助言していたりしました。
クレアがジェイミーの消息を調べにスコットランドに戻ったときに(「ジェイミーの墓標」では)は、家政婦のグレアムさんはもう亡くなっていましたが、孫(?)のフィオーナがいました。フィオーナもまた、ロジャーの家政婦として牧師館で働いており、ロジャーが手放す牧師館を譲り受ける(市の持ち物で、ウェイクフィールド牧師の持ち物ではなかった)つもりです。フィオーナが牧師館にこだわる理由があるのでしょうか。このグレアムさんもまた、10冊目にしても、まだ謎のある人です。孫のフィオーナに魔女としての情報を残しているのではないか、とも私は思っています。

エレンの妹、ジョカスタが登場

クランの点呼は、ジョカスタも連想させました。「キャメロンの一族、ここにあり!」は、この「妖精の丘にふたたび」ではじめて登場する、ジェイミーのおばの嫁いだクランです。なんと、エレンの妹です。コラム、ドゥーガルの妹でもあります。新大陸でジェイミーたちは、このおばを頼ってたずねていきます。しかし実際は、跡取りも夫もいない、おばのほうがジェイミーが訪れたことを喜びました。実権は自分がにぎりつづけるけれども、自分の領地の当主にしてしまいたい。いかにもマッケンジーらしい気性に描かれていました。そういえばコラムとドゥーガルも、リアフ城にあってさえジェイミーをコントロールすることはできませんでした。

トライオン総督からの提案

一文無しでアメリカに来てはいても、ジェイミーはなぜか、総督から裏のありそうな入植のさそいを受けます。開拓するのは難しいけれども、ハイランドの奥地で育ったなら、へんぴな内陸の土地も大丈夫でしょう、と。ジョカスタの跡取りになるにしても、総督の誘いを受けて自分の土地を持つのも、ジェイミーにとっては一見ありがたい申し出なのですが、少し考えると困難であることに賢いジェイミーは気づきます。原作でのジェイミーは、政治的なニオイに敏感だし、そつもなく、頭の回転も早いです。勇気があって純粋なだけではありません。そこが魅力なのですが、映像化されると、ちょっとアイドルっぽい。

クレアは、なぜ愛されている自覚がうすいのか

「きみにはわからないのか?」「できれば全世界をきみの足元に横たえたい、クレアーそれなのに、きみに与えるものがなにもないんだ!」とジェイミーが語る(たまらなく素敵な)シーンがあります。土地を手に入れるため、無視できない困難を受けようとするジェイミーの動機は、クレアのためだということが、クレアにはわかりませんでした。ジェイミーはいつも、自分のためには領地も財産も必要ないのです。クレアのため、家族のため、クランのためです。誰かのために生きるジェイミーは、誰かが自分のことを思ってくれていることを疑いません。アメリカに来て、おばが自分を必ず受け入れると知っていました。クレアもまた、ジェイミーやブリアナ、目の前の傷ついた人のために生きる人ですが、愛している家族であるジェイミーやブリアナに対してさえ、クレアのことを思ってくれているとはなかなか気づきません。ジェイミーとクレアが違うところです。自分が他者にとって価値があると認識できているかどうか。それは、クレアの両親が早くに亡くなったことが関係しているかもしれません。自信にあふれたジェイミーにクレアが惹かれる理由で、同時に読者がジェイミーに惹かれる理由でもあると思います。

「時の旅人 クレア」から、「妖精の丘にふたたび」まで、金の指輪の3つの役割

ある襲撃に遭い、クレアはふたつの指輪を失います。あとから指輪がひとつ見つかり、フランクの金の指輪のほうが失われた事がわかります。この指輪は、結婚してから(原作では)外したことがほとんどなく、内側に彫られた文字に気づかなかったくらいでした。フランクが亡くなって、指輪は役目を終えたということでしょうか。どちらをなくしてもおかしくなかった状況ですから、金の指輪が失われたことは、意味があるように思います。

1)過去にあっては、クレアは金の指輪を見て「フランクはきっと自分を捜している」と心を痛め、フランクに罪悪感を抱きます(「時の旅人 クレア」)。金と銀の指輪が、ふたつの世界に生きるクレアを象徴する役目がありました。
2)フランクへと続く血筋が絶えるおそれがあったときは(「ジェイミーの墓標」)、この金の指輪がクレアの指に存在していたことが、フランクはきっと生まれてくるんだろう、と想像できる材料でした。そして、カローデンの直前に20世紀に戻ったクレアを保護し、ブリアナを育てることで、フランクの役目は(フランクの人生も)終わりました。金の指輪は、クレアとブリアナを守る役目を終えます。
3)いざ、クレアがカローデンの戦いを逃れて20世紀に戻っても、愛情はフランクに戻りません。クレアの愛情を示す小道具として、指輪はこのときすでに存在価値がなくなっていたようにも思えます。また、フランクの人生もまっとうされましたし、指輪の存在意義は文字が彫られていることに関係するのではないでしょうか。映像化されたドラマでは、クレアがジェイミーとの結婚式明けの朝、金の指輪を見つめるシーンがありますが、ここでは裏にある文字には触れていません(文字は重要でないから?)。ただ、この指輪の文字をロジャーも確認しています。もし、指輪だけをロジャーが見つけたら、「これはクレアが身につけていた指輪だ」ということを認識できるはず。文字の内容ではなく、ロジャーがクレアのものだと認識するためのしるしでしょうか。

妖精の丘にふたたび1帯付き

きれいな表紙

協会墓地にある花崗岩の墓石に記されたジェイミーの名前と、「クレアの最愛の夫」ということば。この墓石についても、まだ謎のまま。ジェイミーはスコットランドで死んだのか。それとも、未来に戻ったクレアとブリアナに向けたメッセージだったのか。ここには、なぜかランダルの墓だってありました。アメリカに根をおろす素振りがあるジェイミーですが、お墓はスコットランドです。ほんとに原題へのメッセージは他にないのでしょうか。

次は「(Outlander 11)妖精の丘にふたたび 2」(別記事)です。